第17章 殺したくてたまらないという顔
顔が、とても近い。
両手を顔の前に出すと、アリアが何を言いたいのかハンジにも伝わったらしい。ごめんごめん、と笑いながらハンジは身を引いた。
「つい盛り上がっちゃって」
「わたしは慣れてるから大丈夫ですけど、今度入ってくる新兵には気をつけてくださいね。びっくりしちゃいますから」
「気をつけるよ」
わかっているのかいないのか、いまいちわからない表情でハンジは言った。
「じゃあそろそろ私は行くよ。長話に付き合わせてごめんね」
椅子を軋ませ立ち上がる。
その姿を見上げ、アリアは一瞬寂しさが心の隅に滲むのを感じた。
「はい。おやすみなさい、ハンジさん」
だがそれはグッと我慢した。
寂しさはきっと疲れからきているのだろう。早く寝るのが一番だ。
「……あぁ」
ハンジはじっとアリアを見ていた。そろそろ行く、と言いながら動かない。何か言いたそうに唇を動かし、やがて細く息を吐き出した。
「ねぇ、アリア」
その声は掠れていた。
目はどこか遠くを見ていて、こちらが不安になってしまうほど弱々しかった。
「これは、あくまでも私の考えなんだけど、聞いてくれるかい?」
「え? えぇ、もちろんです」
座りますか? と問いかけると、ハンジはゆっくり首を横に振った。
「巨人になったエレンには知性があった。中にいる彼の意思によって無垢の巨人を殺し回り、岩を持ち上げて壁の穴を塞いだ。普通の巨人はそんな行動はしない。多少例外はいるけど、ほとんどの個体が人を食うことだけを考えている」
メガネを外し、眉間を揉む。
この話がどこに着地するのかわからなくて、アリアはただ相槌を打つことしかできなかった。
「そう考えたとき、ある仮説が私の頭に浮かんだんだ」
食堂の窓から月明かりが差し込んでいた。
冷たささえ感じる光がハンジの顔を照らしあげる。
伏せられた瞼が持ち上がり、アリアをまっすぐに見据えた。
「超大型巨人と鎧の巨人の正体は人間じゃないかって」