第3章 正しいと思う方を
起床の鐘が鳴る。
パチッといつもの時間に目覚めたアリアはまだ開ききっていない目をこすり、然るべきところに服を身につけていく。
洗濯したてのワイシャツ。
ピチッとした兵団支給のパンツ。
ベルトを締めて、ハンガーにかけたジャケットを手に取る。
昨日の夜に整備しておいた立体機動装置に触れ、装着した。
「おはよう、オリヴィア、ローズ」
「はよー」
「おはよ」
仲間たちに朝の挨拶をして、朝食を食べに食堂に行った。
その日の兵団は張りつめた空気が流れていた。それもそのはずだ。
今日は壁外調査の日なのだから。
「やっぱり喉通らないわね……」
「ね」
いつものオレンジジュースと味気ないパンと味の薄いスープ。
壁外調査の日だとしても出されるメニューは変わらないことに不思議な安心感を覚えた。
「まさかこの朝食に安心感を覚えるなんて……」
「ふふ、いつもと変わらないって大切ね」
なんとか朝食を詰め込んだアリアとオリヴィアは1度部屋に戻り、こざっぱりとした室内に口を閉じた。
3日前、上官に新兵が呼び出されて言われたのだ。
――荷物をまとめておくように。
壁外調査で死んだとき、遺品整理をする者を少しでも楽にするためだ。
「……じゃあ、行こうか」
息を吐き、アリアは部屋に背を向けた。
「またね、アリア」
「うん、またねオリヴィア」
お互いに所属する班は違う。陣形の位置も少し離れていた。
今にも泣き出しそうなオリヴィアと最後にハグをし、アリアは厩舎へ向かった。
「おはよう、グリュック」
人間の落ち着かない空気を感じ取ったのか、グリュックは鼻を鳴らし、足踏みをしている。
声をかけると、一瞬こちらを見てすぐに目を逸らした。
「今日はよろしくね、グリュック。あなたにまた寂しい想いをさせないために、わたしは死なないから」
グリュック。
その名の通り、あなたにたくさんの幸運が訪れますように。
「……行こう」