第17章 殺したくてたまらないという顔
大慌てで弁解しながら、姿勢を正して礼を言う。
アリアの慌てっぷりにハンジはおもしろそうに笑った。
「どういたしまして。まさか顔を褒められるなんてね。初めてだよ」
「そ、そうなんですか?」
いや、まぁ、そうか。
聞き返しながら納得している自分もいた。
普段目立つのは逸脱した知的好奇心と巨人に興味を示すという奇行。改めて話してみれば印象を改めるが、彼女と深くまで話をする人間は少ない。
「私の顔は君の好み?」
「えっ、えぇ?? 急にどうしたんですか?」
「いいじゃんいいじゃん」
ニヤニヤと、ハンジは明らかに面白がっている。アリアは困り果ててしまった。
疲れきった頭でこぼしてしまった言葉がこんな風になるなんて。
「えっと、」
「うんうん」
うーーん、とアリアは悩む。
そもそも自分の顔の好みというものを正確にわかっているわけじゃない。強いて言うならリヴァイの顔なのか? 初めて会ったとき、その顔の美しさに見惚れてしまったのを覚えているし。
改めてアリアはハンジの顔を見る。
よく動くハシバミ色の瞳は真剣な表情になると細められ、すべてを見透かすような鋭さを持つ。鼻筋はスッと通っているし、明るい笑顔は周りの空気までも明るくしてくれる。好みか好みじゃないかと問われればそれはもちろん――
「好きですよ」
パッと笑って言った。
ハンジはしばらく黙っていたが、やがてアリアから目を逸らした。
「ハンジさん?」
「なんでもないよ」
「そっちから聞いてきたんですよ! あからさまに顔を逸らされると恥ずかしいんですけど!」
「あははっ、ごめんごめん!」
なにかを切り替えるようにハンジは口を開けて笑う。
「アリアに褒めてもらえてうれしいよ」
ハンジは手を伸ばし、アリアの頭を優しく撫でた。
こうしてだれかに撫でられるのは久しぶりだった。わしゃわしゃと、大人が子どもにするように。