第17章 殺したくてたまらないという顔
──────────
─────
馬の運搬。
負傷兵の救護。
巨人が残っていないかの確認。
そして突如舞い込んできた巨人捕獲の知らせ。
ジャケットを脱ぐ暇もなく、アリアは食堂でスープを食べていた。
諸々のことを終えたころにはすでに夜中で、周りにはアリアしかいなかった。みんなまだ残っている仕事に奔走しているか、すでに眠っているかのどちらかだろう。
やっとありつけた食事はいつもの薄味のスープとパン。
壁外調査からの急な帰還だったからこうして少しでも用意してくれているだけ有難い。
アリアのまぶたはほとんど閉じていた。半分眠りながらそれでもスプーンを口に運ぶ。あまりにもゆっくりと食べているせいでスープは冷めきっていた。パンをちぎって詰め込む。
そのとき、ぐらりとアリアの頭が傾いた。
器の中に頭が突っ込む直前、だれかに強く肩を掴まれた。
「あっ、ぶなかったねぇ!」
明るい声が上から聞こえた。
その声でようやくアリアの意識が目覚める。
声の主はゆっくりとアリアの上半身を起こしてくれた。
「大丈夫?」
「……ハンジさん」
ぼんやりとアリアは言う。
そこにはやはりボロボロの格好のハンジがいた。
壁内に残っていた巨人捕獲を指揮したのは彼女だった。たしか2体捕まえることができたらしい。飛び上がって喜んでいたのを見た気がする。
「ずいぶん疲れてるみたいだね」
かけていたメガネを額の上に押し上げ、ハンジは困ったように笑っている。普段の奇行で忘れ去られがちだが彼女の顔は整っている。
「…………きれいな、顔……」
「え??」
「あっ、」
しまった。あまりにも疲れすぎていて頭の中のことが勝手に口から出ていた。いきなり上官に向かって「きれいな顔」発言は失礼だろう。
「も、申し訳ありません、えっと、ありがとうございます。ハンジさんがいなかったらスープまみれになるところでした」