第17章 殺したくてたまらないという顔
「あの、ハンジさん。わたしの頭、汚いですよ」
適当にまとめた髪がさらにボサボサになっていくのを感じながらアリアは言う。
「兵舎に帰ってきてからまだシャワー浴びれていませんし……」
「だーいじょうぶ! 私なんて1週間入ってないことあるし」
「そ、それは……ハンジ班のみなさんのために入ってあげてください」
「そう?」
ハンジはアリアの頭から手を退けると、ドカッと隣の椅子に腰掛けた。皿の上に乗っていたアリアの食べかけのパンをむしって、口に放り込む。冷めてカチコチのパンなのに彼女は「うまい!」と高らかに言った。
それを見ていると、思わず笑みがこぼれていた。最初は口角が上がるだけだったのになぜだかそれすらおもしろくて、喉が震える。
気づいたときにはアリアは目元を手で覆って笑っていた。声を出してぷるぷると身を震わせ始めたアリアを見て、ハンジも同じように声を出して笑い出した。
「そんなにおもしろかった?」
「ふっ、へへ、ふふ、はい、ぃひひっ、だってハンジさんっ、あははっ」
どうして、いったいなにがここまで笑いを誘うのか、アリアにはさっぱりわからなかった。だがそれでも笑いは止まらない。
耐えられなくてアリアはハンジの肩に額を乗せて笑い続けた。
普段なら、たとえハンジだろうと上官に対して気軽に触れることはないのだが、疲労した頭ではそこまで考えが回らなかった。
ハンジ自身もそれを払い除けることはなく、ふたりはひと呼吸つくまで笑っていた。
はー、と目に浮かんだ涙を拭ってアリアは顔を上げる。
「ところで、ハンジさんはこんな時間までいったいなにを?」
落ち着くために水を飲んでアリアは問いかけた。
「幹部会。といっても、みんな疲れ果ててたから畏まった感じじゃなかったけど」
「幹部会?」
「そ。超大型巨人が出現したこともそうだし、なによりエレン・イェーガーのことをね」