第17章 殺したくてたまらないという顔
「ペトラ! オルオ! 足を狙え!」
「「了解です!」」
トロスト区での巨人掃討が開始されてからおよそ1時間が経っていた。
よほど壁の中に巨人が侵入していたのか、殺しても殺しても彼らは湧いて出てきた。しかし幸運なのはここが壁内という点だ。
家の屋根を走り、通りの隙間を滑る。
壁外と異なり、アンカーを刺す場所が多くある。立体機動にはもってこいだった。
狙いを定めていた巨人が両足から崩れ落ちる。
ペトラとオルオが足の腱を切り落としたのだ。それを確認してから、アリアは飛び上がった。うなじをえぐる。確実に巨人が事切れたのを横目に見て、しかしアリアは動きを止めなかった。
「立ち止まるな! 続け!」
屋根の上に降り立ち、走る。
負傷者が出ていると報告が上がっているのをアリアは聞いていた。さすがの調査兵団でも、壁外調査からの巨人掃討は堪えるものがある。
昼食も食べていない。動きが鈍るのも当然だ。
これは、時間との勝負だった。
* * *
巨人を殺して、殺して、殺して、殺す。
血の匂いが鼻にこびりつき、ブレードは欠けてガスも減る。
ひどく腹が減っていた。
マントに飛んだ血が蒸発するのを見ながら、アリアは厳しい目で周りを見渡した。
巨人の地響きは明らかに少なくなっている。ちゃんと討伐は行えている。あとどれほどの巨人が残っているのかはわからないが。
アリアの視界の端で1体の巨人が走っていた。
こちらへ向かっている。14メートルはあるだろうか。近くに協力できそうな仲間はいない。
(……一人で、あれを)
忌々しさに顔を歪め、それでもアリアは戦うことを選んだ。
腐っても特別作戦班に所属する兵士なのだ。こんなところで敵に背を向けて飛び去るわけがない。
最後の一対のブレードを抜き、アリアは息を整えた。