第17章 殺したくてたまらないという顔
「駐屯兵団所属、リコ・ブレツェンスカです」
「調査兵団兵士長のリヴァイだ」
名乗ったリコはハッと目を開く。
リヴァイを見たのは初めてなのだろう。わずかに緊張感がその顔に滲んだ。
「超大型巨人によってトロスト区の門が破られ、壁上整備にあたっていた訓練兵及び駆けつけた駐屯兵で侵入した巨人の掃討を行なっていました」
そう、そこまでは予想通りだ。
アリアはリヴァイの方をちらりと見てからアルミンたちの元へ飛んだ。
蒸気を上げて消滅していく巨人の肩に乗る。
「その途中、この訓練兵──エレン・イェーガーが巨人に変身できることが発覚、それを利用しトロスト区の穴を塞ぐ作戦を実行しました」
「巨人に変身?」
「エレンが……?」
そこで初めてリヴァイの顔が歪んだ。さすがの彼もその言葉だけは瞬時に理解できなかったようだ。
アリアは動きを止めて、思わずエレンを見下ろす。
「姉さん」
「アリア……」
アルミンが囁き、ミカサは気を失っているエレンを抱き抱えていた。
エレンの目の周りには不思議な模様があった。赤黒く、何かが張りついていたような痕だ。
本当にエレンが巨人に?
「二人とも、怪我はしてない?」
状況を飲み込めないまま、とりあえずはアルミンとミカサへの確認が先だった。アリアの言葉にアルミンが頷く。
「僕もミカサも、エレンも大丈夫だよ。姉さんこそ、壁外調査中じゃなかったの?」
「団長の指示で引き返してきたの。巨人の動きが怪しいって言って」
「作戦は無事に成功し、エレン・イェーガーの身元の所在はこれから決定する予定です」
「この作戦の指揮は」
「ピクシス司令です」
アリアはリヴァイを振り返る。
全てを正確に理解できたわけではない。エレンが巨人になるということだって、空いた穴を塞げたことだって、言葉だけが頭の中を滑っているような感覚だった。
リヴァイは何かを考えるそぶりのあと、アリアを見た。
「今頃エルヴィンも司令から同じ話を聞いてるはずだ。俺たちへの指示は変わらないだろう」
「了解です」
アリアは再びブレードを抜き、アルミンとミカサに微笑んだ。
「安全なところにいるんだよ」