第17章 殺したくてたまらないという顔
アリアの動揺を感じ取ったのか、グリュックがこちらを見上げる。それを安心させるようにアリアは彼の首を軽く叩いた。
深呼吸を繰り返す。
(……きっと、大丈夫)
アルミンは賢い子だし、ミカサもいる。エレンが少しだけ心配だけど、二人がいるならきっと大丈夫。きっと。
手綱を強く握りしめる。
もう、震えはない。
「すでに他の兵士への伝達は行なっている。これより、トロスト区へ帰還する」
エルヴィンの声に、アリアは唇を引き締めた。
* * *
走る。ただひたすらに走る。
誰も何も喋らなかった。
ほとんどの巨人が壁の中へ向かっているのか、巨人発見を知らせる赤い煙弾は一度も撃ち上がらなかった。
「伝達!」
ようやく壁が見えてきたころ、右翼側から伝令が回ってきた。
その声があまりにも切羽詰まっていて、アリアの背中に冷や汗が流れる。これ以上恐ろしいことが起こるなんて考えたくない。
「破壊されたと思われるトロスト区の壁が大きな岩のようなもので塞がれているとのこと!」
アリアは息を呑む。思わずエルドたちと顔を見合わせる。
全員、同じように伝達の意味を理解できていない表情をしていた。
「それに伴い、それぞれの班で馬をリフト地点へ集める者と立体機動で壁を越え、壁内に残る巨人の掃討を行う者で別れろとのことです! 以上の伝達を左へ回してください!」
「ペトラ、オルオ、お前たちが馬を、そして伝達を回せ。ほかは立体機動に移れ」
一切の悩む時間を見せず、リヴァイは言った。
アンカーを近くの民家に刺し、ふわりと浮く。空いた馬の手綱をオルオが握った。それを追って、アリアもグリップを握りしめた。
同じように伝達を受けた兵士たちが飛んでいるのが見える。
アリアは息を整え、空中に身を投げた。