第17章 殺したくてたまらないという顔
アリアは尋ねようか迷い、やめた。
必要ならエルヴィンから言ってくれるだろうし、何より、彼は何かを考えているように見えた。その邪魔をするべきではない。
草原が広がる土地を抜け、街の跡地と思わしきエリアへ入る。
巨人が歩き回ったせいで民家や露店はところどころが壊れ、朽ちていた。雑草の生えた石畳を馬の蹄が打つ。
「リヴァイ兵長!」
しばらく無言で走っていたアリアは、前方にリヴァイの姿を見つけた。
おそらく増援に来ていたのだろうペトラもそばにいる。
アリアの呼びかけにリヴァイは顔を上げた。
「アリア、エルヴィン……?」
アリアを見て一瞬目元が緩み、そしてその隣にいるエルヴィンの姿に眉間の皺が深くなった。アリアと同様、何か嫌な予感がしたのだろう。
アリアはグリュックの手綱を引き、足を止めた。
ハッと息を呑む。
まだ若い、青年兵士が地面に寝かされていた。
腹部からの出血が死因だろう。右手にはブレードが強く握りしめられている。最期まで彼は戦い通した。しかし不思議なことに、その表情は驚くほど安らかだった。
リヴァイを見る。彼の左手は血で汚れていた。
蒸発する巨人の血ではない。
おそらく──
「エルヴィン、何があった」
「退却だ」
エルヴィンの端的な言葉にアリアは思わず彼を見た。
ペトラが驚いたように目を見開く。
退却? 予定していたよりずっと早い。
「巨人が街を目指して一斉に北上し始めた」
「北上」
スッ、と頭の片隅が冷える気配があった。顔面から血の気が引いていくのがわかる。
ここから北にある街は、トロスト区。
「5年前と同じだ。壁が破壊されたかもしれない」
アルミンが、エレンが、ミカサが、彼らが所属する訓練兵たちが今日、いる場所だ。
アルミンからの手紙にそう書いてあった。壁上の整備をするのだと。
「アリア?」
微動だにしなくなったアリアの肩をエルヴィンが軽く揺する。
息を吸い込み、アリアは首を横に振った。
「いえ、退却の指示、了解しました」
かろうじて絞り出した声は震えていた。