第17章 殺したくてたまらないという顔
「あ、あぁ、あのとき……」
猛吹雪で視界が塞がれ、なにも見えなくなった瞬間を思い出し、アリアは頷いた。たしかにあれは恐ろしい経験だった。
「……初陣を思い出した」
ぽつ、とこぼされた言葉にアリアは息を呑む。
「イザベルとファーランが死に、お前が、親友を失ったときだ」
アリアは無意識のうちにバレッタに触れていた。
オリヴィアを失った悲しみは年月のおかげで少しずつ癒されていた。もう彼女のことを思い出して涙にくれることはないし、彼女のお墓の前で泣き言を言うこともなくなった。思い出を懐かしむ気持ちさえあった。
だが、あの子の死に様を思い出したくはなかった。
悲惨な最期だった。助けられた命をアリアは目の前で見捨てた。それはアリアの後悔であり、戒めだった。
「あのときは大雨が降っていましたね」
雨の中、索敵陣形は機能しなくなり、その上奇行種が出現した。そのせいでアリアの同期は全員死に、アリア自身もあと一歩のところで巨人に食われてしまうところだった。
「雨のせいで前も後ろもわからなくなって……同じ分隊の人ともはぐれて。奇跡的に合流できたオリヴィアだけが頼りでした」
そういえば、あのときと今日の状況はよく似ていた。
班のリーダーを見失い、巨人と遭遇した。
「あの日のように、また、俺の知らないところで仲間が死ぬのかと恐ろしかった。お前が……死ぬんじゃないかって」
アリアはリヴァイを見る。
彼のアッシュグレーの瞳はかすかに揺れていた。それはよく見なければわからないほど些細なものだったが、アリアにはありありと見えた。
「だから、お前たちが戻ってきたときひどく安心した。まったく……情けねぇな」
ため息を吐き出し、リヴァイは自分自身に呆れたように首を横に振った。