第17章 殺したくてたまらないという顔
むき出しのうなじを冷たい風が舐める。
思わず肩をすくめるが、濡らした髪をおろしているよりはマシだろう。
「アリア」
抑揚のない声で呼ばれる。なんですか、と返事をしようとしたとき、ぴた、とぬくい手がうなじに添えられた。
「びっ、くりした……」
飛び上がりそうになったのをこらえて、隣のリヴァイを見る。
彼はその左手をアリアの首筋に当てていた。
あたたかいからまだ助かったが、冷たいままの手だったら反射でリヴァイを蹴飛ばしていたかもしれない。
歩きにくくてアリアが足を止めると、リヴァイも同じように立ち止まった。
「あの、リヴァイさん?」
そんなところを掴まれていたら歩きにくいしほかの人からも変な目で見られてしまう。
なんの意味もなくリヴァイがこんなことをするとは思えないが、彼の表情にはなにも浮かんでいなくて、アリアは困惑した。なにがしたいのだろう?
等間隔に立てられたかがり火がバチンと爆ぜる。
静かなざわめきが少し遠くから聞こえる。
分厚い雲に覆われていた月が姿を現し、静かに二人を照らした。
不意にリヴァイの指先が動き、ゆっくりと力が込められる。くすぐったさと、少しの苦しさにアリアは首をすくめた。それでも彼は掴んだ手を離さない。
鼓動がリヴァイの指先に伝わっていくのがわかる。
「リ、リヴァイ、さん?」
一言でもいいからなにか言ってほしい。
そんな意味も込めて呼びかけると、ようやくリヴァイはアリアの首から手を離した。
ぬくもりが離れ、寒さがより一層身を震わせる。
「どうしたんですか?」
立ち止まったままのリヴァイの前に回り、そっと顔を覗く。
無表情だったリヴァイはアリアと目線を合わせると、薄く唇を開いた。
「生きてる」
「……へっ?」
「昼間、吹雪の中でお前の姿を見失って肝が冷えた」