第17章 殺したくてたまらないという顔
見張りとして立っている女兵士の横を通り、衝立で隠されたところへ入る。
焚き火の上に置かれたドラム缶には水がたっぷりと入っていた。
そっと湯を触ってみると、外気にさらされているからちょうどいい具合の熱さだった。
シャツを脱ぐ。ベルトを外してズボンを引き抜いた。下着を全て取り払うと、あまりの寒さにぶるりと震える。
桶に湯を汲んで頭からかぶった。
ぎゅっと心臓が縮む感覚がして、やがて弛緩する。思わず長い息を吐き出した。
ふと、少し離れたところから同じように水飛沫の音がした。女性だろうか、男性だろうか。あったかくて気持ちいいよね、と心の中で語りかけながら、アリアはもう一度湯をかぶった。
「アリア」
見張りの兵士に礼を言って、衝立から出る。
名前を呼ばれて辺りを見渡すとリヴァイがいた。
「リヴァイさん」
気が抜けて兵長呼びを忘れてしまう。すみません、と謝ると彼はなんてことないように首を横に振った。
「いつも通りの呼び方だろ」
「ここは壁外なんですから」
壁外ではあくまでも上官と部下なのだ。馴れ馴れしく呼ぶわけにはいかない。
キッパリと言うアリアにリヴァイはどこか不服そうに目を細めた。
「今はいつも通りでいい。そっちの方がいい」
「そ、そうですか?」
「あぁ」
「じゃあ……リヴァイさん?」
「なんだ」
さっきまでどこか不満そうだったのに、打って変わって満足気に笑う。
隣に並んでアリアとリヴァイは歩き出した。
「リヴァイさんもお湯浴びですか?」
「あぁ。おかげであったまった」
少し濡れた髪をかき上げ、リヴァイは言う。その仕草に見惚れているとパチリと目が合って思わず逸らした。隣から聞こえてくる笑い声にアリアはむむ、と唇を尖らせた。
「わざとですね」
「何がだ」
「なんでもないです!」
わざと声を張り上げて、湿った髪をひとつにまとめる。
バレッタで留めて軽く頭を振った。うん、大丈夫。これで落ちてくることはないだろう。