第17章 殺したくてたまらないという顔
その声はあまりにも安堵を含んでいて、自分自身に呆れて思わず口角が上がる。
「全員無事だな」
リヴァイはサッと5人の顔を見てから頷いた。
やはり彼の表情に緊張や不安はない。
アリアの考え通り、リヴァイがこんな吹雪で取り乱すことはないのだ。
「もうすぐで天幕を張るポイントだ。このまま前へ進むぞ!」
一瞬アリアに視線を留めたあと、すぐさま前を見据える。
その目線の意味が少しだけ引っかかって、アリアは首を傾げた。
* * *
天幕を張るころにはすでに雪はやんでいた。まだ雲は分厚いが、エルヴィン曰く「明日は晴れるだろう」とのこと。
(団長は天気も予想できるんだなぁ)
雪でびしょびしょに濡れてしまったマントやシャツを焚き火のそばのロープに吊るしていく。
春だからと着替えも薄いものを持ってきてしまっていた。
ずびずびと鼻を啜りながら、アリアは腕をさすった。
早く熱い湯を浴びたい。
通常の壁外調査では基本的に風呂には入らない。やるとしたら川で水浴び程度だ。だが、さすがに今日は例外だった。
エルヴィンのはからいにより、沸かした湯が用意され、班ごとにそれを浴びることができるようになったのだ。
「アリアさん、本当にありがとうございます」
濡れた衣服を干し終わったころ、後ろから声をかけられた。
「ペトラ」
振り返ると、そこにはほかほかと湯気を上げるペトラがいた。
頬は赤くなっていて、髪が湿っている。ちょうど湯を浴びてきたのだろう。
「私の分まで干してもらっちゃって……」
申し訳なさそうに眉を下げるペトラにアリアは笑った。
「気にしないで。寒いのは嫌でしょ? わたしも今からほかほかになってくるから」
干すのなら一人分でも二人分でもそう変わらない。自分が寒さに震えているよりも、仲間が寒い思いをしている方が嫌だった。
アリアの微笑みに、ペトラは改めて深く頭を下げた。
「では、先に天幕に戻ってますね」
「うん。またね」
タッと駆け出したペトラの背中を見守り、アリアも歩き出した。