第17章 殺したくてたまらないという顔
どれくらい走っただろうか。
吹雪の中では走っていても、本当に前へ進んでいるのかわからない。馬の蹄の音がするのに体が前へ向かっている感覚がなかった。隣を走るグンタの姿だけが頼りだった。
鼻水をすすり、無意識のうちに声が漏れる。
フードのおかげで顔周りはそれほど寒くはないが、それでも鼻の頭や顎は感覚がなくなるほど冷え切っていた。手もそうだ。冷えの痛みを通りこし、手綱の感触さえない。
(こんなときに、マフラーがあったらなぁ)
思っても仕方のないことを思う。
脳裏に浮かぶのはミカサの姿だ。彼女はいつもエレンから貰ったマフラーを巻いていた。あぁ、今、あんなマフラーがあったらどれだけいいだろうか。
「アリアさん!」
そのとき、グンタが声を出した。アリアは物思いから覚める。
「エルドたちです!」
グンタが指差した方に目を凝らす。
確かにそこには3人分の人影があった。
「エルド!」
アリアたちが抜けたため、横一列に並び直したのだろう。3人は互いの手綱を握りながら走っていた。
アリアの呼びかけにエルドが振り返る。彼の顔に安堵が浮かんだ。
グリュックを急かし、彼らの横に並ぶ。
「巨人は討伐した。変わりはない?」
「はい! ただ、兵長とはまだ合流できていません……」
合図を出して、再び元の配置に戻る。
アリアの左右にグンタとエルドが、その後ろにペトラとオルオがついた。
エルドの不安そうな声にアリアは首を横に振った。
「いつかは会えるはずだよ。リヴァイ兵長が巨人に食われて死ぬとは思えないし、この吹雪の中だとしても冷静さをなくすはずがない。きっと、もう今夜の宿泊ポイントについているよ」
励ますように笑いかける。
その言葉はほとんど願望ではあったが、あのリヴァイが危機的な場面に陥っているところは想像できなかった。
エルドはまだ心配そうな顔をしていたが、やがて「そうですよね」と頷いた。
「アリア!」
ずっと前の方から声がした。
ハッとアリアは顔を上げる。
猛吹雪の中、その声はよく聞こえた。
「リヴァイ兵長!」