第17章 殺したくてたまらないという顔
地鳴りが近づいてくる。その巨大な影は進行方向にいた。
足止めか殺すか。
動きを止めたとしても今の馬の速度では追いつかれる可能性もある。
アリアは息を吐き、右隣を走るグンタを見た。
「わたしとグンタのペアでやる! 他はこのまま進め! わたしとグンタが戻らなくても構うな。その場合の指揮権はエルドに任せる」
「はいっ!」
グンタと目を合わせ、頷く。
彼が腱を、アリアがうなじを狙う手筈だ。全ては訓練通りに。
グンタが鞍の上で立った。ワイヤーが飛び、トンっとその体が浮いた。この視界の悪さではきちんと腱を削げたかどうかもわからない。それでも、彼を信じてアリアも宙に身を投げた。
フードが脱げ、顔があらわになる。息を吸い込むと肺が瞬く間に凍った。ブレードを握りしめる。巨人が膝をついているのが見えた。両腕を振りかぶった。アリアの視線の先には巨人のうなじだけがあった。
肉を削ぐ。
あたたかい血が顔に飛び散る。
人を食う化け物のくせに、その体に流れる血は熱い。
巨人が絶命したのを確認し、アリアは地面に着地した。蒸気をあげて血が蒸発した。
「アリアさん!」
グリュックを連れてグンタが駆けてきた。
「ありがとう、グンタ」
白い息を吐き出すグリュックの首に手のひらを当てて暖をとる。かじかんでうまく動かない手に少しだけ血が通い、アリアはグリュックに乗った。
「よし、すぐに戻ろう。エルドたちと合流する」
「了解です」
遠くで白く霞んだ太陽が沈んでいるのが辛うじて見えていた。
あれを目指して進めば今夜天幕を張るポイントに辿り着けるはずだ。
マントに顔をうずめ、アリアはグリュックの腹を蹴った。