第17章 殺したくてたまらないという顔
──第56回壁外調査 1日目 夕方
深くかぶったフードの下でアリアは顔を歪めた。
前を走るリヴァイが振り返る。同じようにフードをかぶった彼の顔も、やはり険しくなっていた。
「全員ついてきているか!」
「はい! 全員います!」
夕日がゆっくりと沈み始めたころ、季節外れの大雪が降り始めた。
最初は粉雪程度だったというのに気づけば風が吹き始め、視界が白く染まっていった。耳元で風の吹き荒ぶ音が鳴り、手綱を握りしめた両手が凍りついていく。
辛うじて隣を走るエルドやグンタの姿は見えているが、前方のリヴァイの姿はどんどん遠くなっていった。このままでは見失ってしまう。
「兵長!」
もう少し走るスピードを緩めてもらおうとアリアは声を張り上げた。
そのとき、ひときわ強い風が吹き、フードが視界を覆う。次に前を向いたときにはすでにそこにリヴァイの姿はなかった。
「リヴァイ兵長!!」
腹から声を出す。
しかし返事はない。
アリアは思わず唇を噛んだ。
「アリアさん! 兵長が、」
「グンタ、エルド、わたしのそばに寄れ! ペトラとオルオはわたしたちのすぐ後ろから離れるな!」
幸いなことに見失ったのはリヴァイだけだ。
グンタとエルドはアリアに言われた通り、馬を寄せる。互いの手綱を握れる距離だから、そう簡単にはぐれることはないだろう。後ろにもぴたりとペトラとオルオが距離を詰めた。
「リヴァイ兵長を見失ったため、指揮はわたしがとる! 巨人を見つけ次第すぐに報告を!」
「「了解です!」」
指示も通る距離にいる。
そのことに安堵しながらも、アリアは歯を食いしばった。
視界は最悪。吹き荒ぶ風のせいで巨人との接近にも気づきにくい。その上、寒さで体は強張り、いざというときにいつも通りの動きができるとは思えない。
もし今、巨人が現れたら──
「前方に9m級の巨人を視認!」
オルオの声に、アリアは己の不運を呪った。