第16章 忌まわしき日
「違う」
小さな声がこぼされる。
「違うんです」
アリアはゆっくりとまぶたを閉じ、息を吐き出した。
俯き、垂れた金髪が彼女の顔を覆い隠す。
「……わたしの両親が気球に乗ろうとしたことはお話しましたよね」
「あぁ」
「その日は、わたしの誕生日だったんです」
リヴァイは一瞬言葉を失った。
疲れたように、アリアはソファに座った。
「わたしが気球に乗りたいと言ったから、両親はわたしへのプレゼントとして気球を飛ばしたんです。わたしにとって誕生日は、両親が死んだ日でもあります。二人はわたしのせいで死にました。わたしが、あんなことを言わなければ」
しばらくアリアは黙った。
リヴァイは話の続きを待ち続けた。急かさず、ただじっとアリアを見つめた。
「罪悪感があるんです。両親への。それを強く思い出してしまうのが、わたしの誕生日です。だから、口にもしたくない。忌まわしき日なんです」
でもね、
アリアは両手に自分の顔をうずめた。
声がくぐもる。
泣いているわけではない。だが、溢れ出す感情を抑えようとしているのかその声は震えていた。
「それだけじゃない。わたしにとってあの日は、両親が死んだ日だけじゃない。あの日、あの夜、わたしは」
喉の奥が引きつれる音が鳴る。
怒りだ。
リヴァイは唐突にそう感じた。
アリアは何かに対して激しい怒りを覚えている。
「自由を奪われた」
「誰に」
「両親を殺した男によって、地下街に売り飛ばされ、それで、」
そのとき、不意にアリアは頭を押さえた。
「アリア?」
「それでわたしは……あれ、どうなったんだっけ」
「思い出せないのか」
「……はい。どうしてだろう」
「覚えているのも辛い記憶なんだ、きっと」
「両親が、殺されたことより……?」
そこまで言って、アリアは自分の口を手で覆った。