第16章 忌まわしき日
アリアは明らかに動揺していた。
思いもよらない質問だったのだろう。顔は青白く染まり、なんと答えようか思案しているのか唇を噛んでいる。
「どうして、急にそんなことを」
リヴァイの顔を見ないままアリアは言った。
「俺にとっては急じゃねぇ。前、エルドとグンタに誕生日を聞かれたときはぐらかしてただろ。どうしてだ」
「いろいろ、事情があるんです」
「祝われるのが嫌なのか? そういう奴じゃないだろ、お前は」
「わたしの誕生日なんて、そう、どうでもいいじゃないですか。今日は、リヴァイさんの生まれた日なんですから」
アリアは笑った。
自嘲のようにも、何かを誤魔化すような笑みにも見えた。
いや、そのどちらもなのだろう。
だがリヴァイは問いかけるのをやめなかった。
「俺にとってはどうでもいいことじゃない。俺が知りたいんだ。俺が、お前を祝いたい。お前に、生まれてきてくれてありがとうと言いたい」
アリアの横顔がかすかに揺らぐ。唇が薄く開き、それからまた、何かを堪えるように閉じられる。
「何がお前をそんなに苦しめる? 何に追い詰められている。俺は、お前の全てが知りたい」
それでもアリアの口は開かなかった。
リヴァイは目を伏せる。腕を握る手に力を込める。
「弟か? それとも……殺された両親か?」
パッ、と弾かれたようにアリアの目がリヴァイを見た。両目は大きく見開かれ、閉じられた唇は震えていた。
その反応だけで、リヴァイには十分だった。
彼女を苦しめているのはやはり、両親の存在なのだろう。
「どうすれば、お前は解放されるんだ」
アリアが弟ではなく自分のために生きられるようになる日まで。母の言葉から解き放たれる日が来るまで。それまでリヴァイはいつまでも待つ気でいた。
そばにいて、できる限り支えてやろうと思った。今もそれに変わりはない。親の死をそう簡単に乗り越えられるとは思っていない。
だが、苦しみ続けるアリアを見ているのは辛かった。
どうにかして、その負担を軽くさせてやりたかった。
リヴァイは、アリアを愛しているから。