第16章 忌まわしき日
「お誕生日おめでとうございます」
柔らかく微笑みながらアリアが言う。
リヴァイは彼女が差し出した小さな箱を受け取った。
箱には丁寧に赤いリボンが結ばれていて、少しだけ重さがある。箱の見た目からして、それなりの値段がかかっていることがわかった。
「これは、」
「誕生日プレゼントです。わたしが選んだんですよ」
12月25日。
この日はリヴァイの誕生日で、1時間ほど前から二人はささやかなパーティーを開いていた。エルヴィンから貰ったワインを開け、ハンジから貰ったつまみを食べる。簡素だが、幸せに満ちたパーティーだった。
ソファーに座るリヴァイの隣にアリアも腰掛け、開けてみてください、と緊張を含んだ声で囁く。
リヴァイは慎重な手つきでリボンをほどいた。
「懐中時計」
そっと蓋を開けると、そこには美しい懐中時計が時を刻んでいた。
文字盤の真ん中は透明で、中の歯車が動いているのが見えた。金色に縁取られたそれは上品な輝きを放ち、持ってみるとすんなりと手に馴染んだ。
「高かっただろ」
思わず言葉がこぼれる。エルヴィンが聞けば「最初に言うべきはそれじゃないだろう」と言われてしまいそうだ。
だがアリアは小さく笑って首を横に振った。
「プレゼントの値段を気にするなんて野暮ですよ」
「悪い」
「……気に入っていただけそうですか?」
恐る恐る、こちらの反応を伺うような様子にリヴァイはすぐに頷いた。
「あぁ。当たり前だ。大切に使う」
リヴァイの言葉を聞いて、アリアは安心したように息を吐いた。
よほど不安だったのか、よかった、と言う声は明るく弾んでいた。
リヴァイは自分の言葉通り、生涯を終えるまでその懐中時計を使い続けることになるのだが、今の彼らはまだ知らない。