第16章 忌まわしき日
二人が去った執務室で、アリアとリヴァイは紅茶と茶菓子を前にして、再び他愛もない雑談をしていた。
「ペトラとオルオに初めて会ったときは壁外だったんです。二人とも巨人に襲われて腰を抜かしていて」
思い出を懐かしみ、アリアは微笑む。
「そんな二人が立派になったなぁ」
まさか特別作戦班に選ばれるなんて。
共に戦えるのが本当に待ち遠しい。
「明日からさっそく訓練だ。立体機動中にゲロを撒き散らさねぇといいが」
「兵長の訓練を受けたら誰だってまずはゲロを吐きますよ。わたしもナスヴェッターさんもエルドもグンタも、みんな一回は吐いてたじゃないですか」
「吐いてる最中に気を失ってゲロまみれになったのはナスヴェッターだったな」
「わぁ、ありましたね、そんなことも! 懐かしいなぁ。あのときの兵長のドン引き顔が忘れられませんよ」
気絶し、自分の吐瀉物に顔を突っ込んだナスヴェッターの姿もなかなかに強烈だったが、それを上回るほどのリヴァイの顔を思い出す。
ドン引きなんて生やさしいものじゃない。その一件以降、ナスヴェッターはリヴァイが妙によそよそしいと不安にしていた。
今でこそアリアも訓練中に吐かなくなり、気絶もしなくはなったが、そうなるまでにかなりの慣れが必要だった。
明日の二人は大丈夫だろうか。
──結論から言うと、大丈夫ではなかった。
リヴァイの言葉は的中し、オルオは立体機動訓練中に吐きながら落下していき、それから数日は悪夢にうなされたらしい。
一方のペトラは吐くことはなかったが、最後の方には力つき、その場に倒れて夜まで目を覚まさなかった。
その日からというもの、二人はリヴァイを見るたびに怯えていたとかいなかったとか。