第16章 忌まわしき日
「俺は時に残酷な選択を迫るときもあるだろう。どちらを選んでも地獄の選択を。それでも、俺を信じてついてくることができるか?」
特別作戦班に互いの信頼は必要不可欠なの。
以前、アリアがそんなことをぽつりとこぼしていたのをペトラは覚えていた。
アリア自身が大怪我を負った壁外調査の後だった。
見舞いに行ったとき、包帯やガーゼにまみれた痛々しい姿の彼女は自分の手を見下ろして言っていた。その手もやっぱり包帯でぐるぐる巻きにされていて。
アリアは痛みを堪えるように目を閉じた。
だがそれは体の痛みだけではない。心の痛みだ。大切な仲間を彼女は失った。自分が背を向けるという形で。
『どれだけ辛くても、苦しくても、そんな命令聞けないって思っても、わたしたちはみんなを信じて託さなくちゃいけない』
そう言って、彼女は弱々しく微笑んだ。
仲間が死ぬとわかっていても、生きて戻ってくると信じなくてはならない。きっとこの班に入るということは、その決断の連続なのだろう。
ペトラは息を吐いた。
執務室には張り詰めた空気が流れていた。
(それでも、)
息を、吸う。
リヴァイの目線を受け止めるように、目を開く。
「もちろんです」
凛と澄んだ声が響いた。
「特別作戦班に入ることを目標として今日まで邁進してきました。もとよりこの命、この心臓、リヴァイ兵長に捧げる覚悟であります」
そこに嘘偽りはない。
あのリヴァイに選ばれた。これ以上の栄光があるだろうか。
アリアと共に戦える。これ以上の喜びがあるだろうか。
ペトラの言葉にリヴァイの目が細くなった。
「お、俺も! ペトラと同じです! 俺は、ずっとリヴァイ兵長に憧れていました! いつかあなたのようになりたいとずっと! 何があろうと、俺は兵長を信じてついて行きます!」
オルオが腹に力を込めて言う。
二人の覚悟はすでに決まっていた。