第16章 忌まわしき日
ソファーに座ったアリアの前にティーカップが出される。アリアは軽く会釈をして静かにカップを持ち上げた。
甘い香りがふわりと広がる。
ひと口飲んで、アリアは向かい合うようにして座るリヴァイを見た。
「この茶葉、キーマンですか? 東洋の」
「あぁ。よくわかったな。この前紅茶屋で珍しい茶葉があったから買っておいた」
「わたし、ずっと幼い頃に1回しか飲んだことなくて。また飲めて嬉しいです!」
声を弾ませるアリアに、リヴァイは満足そうに口角を上げた。
茶菓子をつまみ、しばらくの間二人は一言も交わさずに紅茶を味わう。
穏やかな時間だった。
「お前を呼んだのは特別作戦班のことについてだ」
2杯目の紅茶をおかわりしてから、リヴァイは口を開いた。立ち上がり、デスクから2枚の紙を持ってくる。
手渡されたそれは、二人の兵士の経歴書だった。
「ペトラ・ラル、オルオ・ボザド……」
そこに記された名を読み上げる。
ハッと息を飲み、アリアは顔を上げた。
「エルヴィンからの命令だ。あと2名ほど、特別作戦班に迎え入れろとな」
「どうして……」
「前回の壁外調査でも思っていたことだが、うちの班は人手不足だ。増援を向かわせるにしても、同時に複数のところで要請されちまえば行けるところも限られてくる」
もう一度、書類に目を落とす。
「アリア、お前はこの二人をよく知っているだろう。どう思う」
「……戦績は十分だと思います。二人とも性格に大きな難はありませんし、エルドとも以前は同じ班に所属していました。協調性についても、言うことはありません」
最近の壁外調査でも巨人討伐の数を増やしていると本人たちから聞いた。毎日訓練に励んでいる姿も見かける。
リヴァイがこの二人を選ぶのも納得だ。
アリアはひとつ頷くと、書類をリヴァイに返した。
「異論ありません」