第3章 正しいと思う方を
「あたしにはやりたいことがあるわ。小さいころからの夢なの」
目を開いたとき、彼女の目には薄らと涙が浮かんでいた。
幼いときを思い出しているのか、震えていた声がわずかに柔らかくなる。
「あたし、調査兵団として戦って、兄さんの願いを叶えて壁も全部なくなった世界を……探検したい」
「……探検?」
アリアがオウム返しに聞き返すと、オリヴィアは内緒話をするように声をひそめた。
「あたしもアリアやアルミンの言っていた海に興味があるのよ」
「そうなの?」
「えぇ。でも壁の外のことを話すのはタブーだからだれにも言えなかったけどね」
オリヴィアはアイスティーを一口飲んだ。
「海には数え切れないくらいの種類の魚がいるのよ。不思議な形の貝や薄布がふわふわ泳いでいるんですって」
「薄布がふわふわ泳いでる!?」
いったいなんなんだそれは。想像もつかない。
目を見開くアリアにオリヴィアはおかしそうにクスクス笑った。
「お椀を逆さまにしたみたいな生き物なんですって! 泳いでる姿はとても美しいけど、毒を持ってるのよ」
「逆さまのお椀が毒を持ってる!?」
「お椀じゃなくて、お椀みたいな生き物」
素っ頓狂な声を上げるアリアにオリヴィアは宥めるように言った。
「あたしそれを知ったとき、とっても感動したの。興味が湧いて、見たこともない生き物を見てみたいと思ったの」
いつの間にか溜まっていた涙は消えていた。キラキラと目を輝かせるその姿はアリアにアルミンを思い出させる。
「……だから、あたしは死ぬわけにはいかない」