第15章 命の優先順位
アリアは深呼吸をする。心を鎮める努力をする。
「トーマン、あのね、わたしはそういう考えが反吐が出るほど嫌いなの」
だがそれは無駄に終わった。
咳払いをして、せめて穏やかな声で続けようとする。
「誰かの恋人だから、誰かの大切な人だから、だからって優先されていい命なんて一つもないんだよ。ここでは全員の命が平等に扱われなければならない。わたしはそう思っている」
リヴァイと付き合うようになってから、アリアはその思いを強く持っていた。
兵士長という肩書きを持つ人間の特別になったからといって、アリア自身の価値が変わるわけではない。アリアはどこまでいってもただの兵士の一人なのだから。
「今のあなたの言葉はわたしを侮辱する言葉でもある」
死んでいった仲間たち全員に帰りを待つ誰かがいた。
母が、友が、恋人が。
そんな彼らの屍を超えて生きるアリアがリヴァイ兵士長の恋人であるという理由だけで命を尊重されるなど、あってはならない。
強い瞳で言い切るアリアに、トーマンは息を飲み、唇を噛み締めた。
「申し訳ありません、アリアさん。軽率な発言でした」
「いいえ、わたしもなんの説明もせず、ごめんなさい」
アリアがリヴァイと恋人であることを公表するのを渋る理由も、そこにあった。トーマンと同じ考えを持つ人間がいないとも限らない。
ならば、黙っていた方がいい。
アリアは息を吐き、切り替えるように頭を振った。
「とにかく、もう二度とあんな危険な真似はしないで。今日は運よく怪我もせず逃げ切れたけど、あんな奇跡がもう一度起こるとは思えない」
「はい。肝に銘じます」
「でも、」
そこでようやくアリアの顔に優しい笑顔が浮かんだ。
「助けようとしてくれてありがとう。トーマン」
アリアの言葉にトーマンは顔を歪めた。つむった瞳から涙が溢れる。
アリアは笑って彼の背中をさすった。