第15章 命の優先順位
泣き止み、立体機動装置の整備のために走り去るトーマンの背中を見送りながら、アリアは息を吐いた。
なんだかドッと疲れが押し寄せてきた。
「アリア」
そのとき、背後から聞こえてきた声にアリアは飛び上がった。
この声の主は振り返らずともわかる。
その場に崩れ落ちたいのを我慢して、振り返った。
「リヴァイ兵長」
聞いていたんですね、と続けると、リヴァイは頷いた。
当然のように彼はアリアの隣に並んで腕を組んだ。
「わたしが強くなるまで言いません、とか言ってたのがばかみたいじゃないですか」
「お前からトーマンに話したんだろ」
「だって、ほんとに嫌だったんです」
自分はなんにも特別じゃないのに。
そんな風に思われるのが、扱われるのが、許せなかった。
乱れた髪が顔に影を作る。リヴァイはそれを指先ですくい、そっと耳にかけた。
「お前の気持ちはよくわかった」
アリアはちらりとリヴァイを見る。
彼は穏やかに微笑んでいた。その微笑みに弱いアリアはすぐに目を逸らした。
「だがこれからもさっきみてぇに人前で告白されるんなら、対処法を考えねぇとな」
「対処法って……例えば?」
聞きたいような聞きたくないような。
リヴァイは悩むような素振りを見せて口を開いた。
「悪い虫が来そうになったら俺がずっとアリアの近くにいる」
なんとも単純な作戦にアリアは思わず笑った。
「なんですか、それ」
「俺は本気だ」
「ふふっ、それはそれで噂されちゃいそうですけど」
言いながら、アリアは「そういえば」と言葉を続けた。
「トーマンが言ってた噂ってどこから出たんでしょうね。火のないところになんとやら、ですし。あとで聞いとかなきゃ」
「あぁ、あれは、」
「何か知ってるんですか?」
リヴァイを見る。彼は何かを言いかけて薄く笑った。
「俺がわざとドアを開けていたからだ」
「……え? どういうことですか??」
噂とドアになんの関係が??
困惑するアリアを置いて、リヴァイは歩き出してしまう。
残されたのは混乱を深めたアリアと、のんびり牧草を食べるグリュックだけだった。