第15章 命の優先順位
目いっぱいガスを蒸かす。振りかぶったブレードはアリアの咆哮と共に、巨人の腕を切り落とした。
その勢いのまま巨人の背後へ回ると、それがなにか行動を起こすよりも早くうなじの肉を抉った。
「グリュック!」
指笛を吹き、グリュックを呼び寄せる。
6体のうち、3体を殺して1体を行動不能にさせた。時間稼ぎは十分だ。
「トーマン、立ちなさい!」
がっしりと掴まれたトーマンをなんとか救出し、立たせる。
彼は全身をガクガクと震わせて今にも座り込んでしまいそうだった。
「さぁ、乗って!」
駆けてきたグリュックに飛び乗り、トーマンを引っ張る。
「しっかり掴まってて」
トーマンが乗ったのを確認し、アリアはグリュックの腹を蹴った。
巨人がアリアたちを追うことはなかった。そのことに安堵しつつ、後ろのトーマンに意識を向ける。
鼻をすする音が聞こえた。泣いている。
「すみません、でした」
「詳しい話は補給地点で聞く。今は周りに巨人がいないかだけを確認して。見つけ次第、訓練通り赤い信煙弾を撃って」
「はい……」
それからしばらく二人は無言だった。
「リヴァイ兵長!」
どのくらい走っただろうか。
アリアは前を走るリヴァイを見つけ、名を呼んだ。
リヴァイが振り返る。そばには、ほかの場所に増援へ向かっていたエルドとグンタの姿もあった。
全員、生きている。
「無事だったか」
安心したようにリヴァイが言った。
そしてアリアの後ろにいるトーマンに目を向ける。
「そいつは?」
「増援先にいた新兵です。彼との話はわたしがします」
リヴァイはひとつ頷くと、それ以上なにも聞かなかった。
頬についた巨人の血が蒸発する。補給地点まであとわずか。