第15章 命の優先順位
蹄の音が小さくなっていく。巨人の目は相変わらずアリアを見ていた。
(……4体すべてを殺すのは得策じゃない)
そこは開けた平地だった。
民家は一つだけあるものの、年季が入っていてボロボロだ。木も生えていない。立体機動にはあまりにも不向きな場所だ。
(足止めが妥当か)
グリュックが見える範囲にいることを確認してからアリアは動いた。
走り出し、アンカーを巨人の足へと飛ばす。軽く飛んでからワイヤーを巻き取り、アリアは地面を滑った。巨人の足の間を抜け、背後に回って方向転換し、腱を削ぐ。
歩行能力をなくし、完全に膝をついたのを見てから、すぐそばまで迫ってきている巨人を睨んだ。
伸びた手のひらがアリアの体を包む。ブレードを振るい、寸前のところで五指を切り落とす。腕を駆け登る。頭を踏み込み、その奥にいる巨人へとアンカーを刺した。
空を飛ぶ。宙に浮かぶ。
真横から、巨人の大きな口が迫る。
「あ、」
気づかなかった。気づけなかった。
この高さをジャンプしてくる巨人なんていないと思い込んでいた。
「あぁぁああああ!!!」
そのとき、だれかの大声が辺りに響き渡った。己を鼓舞するかのような咆哮は青年のもので。
「トーマン!!」
アリアは叫んだ。
現れたのはトーマンだった。彼は今にもアリアを食らおうとする巨人のうなじへ向かっていた。
ぐるっ、と巨人の首が動く。驚くほど俊敏な動きで巨人はトーマンの体を掴んで地面に着地した。
「うわ、ぁあ、あああ!!!」
トーマンは絶叫する。巨人はトーマンをその口へ放り込もうとする。アリアは歯を食いしばり、アンカーを巨人の腕へ刺し直した。