第15章 命の優先順位
馬の蹄の音だけが響く。アリアはグリュックの上に伏せながら、目的地へと急いでいた。
陣形の崩壊を招く恐れのある巨人集団が出現。これ以上の人的損害は許されない。というエルヴィンからの伝達が来たのが3分前。
アリアはリヴァイから命令を受け、その巨人集団の元へと向かっていた。
緊張で心臓がかたい音を立てる。どれくらいの数の巨人がいるかまでは聞いていなかった。
地響きがアリアを揺らす。顔を上げる。視認できる限り、6体の巨人がいた。兵士の絶叫が響く。戦っている者、腰を抜かし、地面にうずくまっている者、落ちた下半身。
アリアは鞍の上に立ち上がり、一番近くにいる巨人にアンカーを突き刺した。ふわりと体が浮く。腰から前へ引っ張られる。巨人のうなじが迫る。
2本のブレードが肉を深く抉り取った。その確かな感覚があった。
空中で身を回転させ、次の巨人に狙いを定める。小柄なそいつは目の前にいる兵士を食おうと手を伸ばしていた。まだアリアの存在には気づいていない。
ガスを蒸かし、ワイヤーを巻き取る。アリアは巨人のうなじへとブレードを叩きつけた。
「総員、聞け! ここの巨人はすべてわたしが引き受ける! 生きている者は全員陣形へ戻れ!」
地面に着地したアリアは声を張り上げた。
「アリア、さん」
弱々しい声がアリアの名前を呼ぶ。さっきの巨人に食われそうになっていたのはトーマンだった。
「ぐずぐずするな!」
巨人は残り4体。こちらの出方を伺っているのか、アリアを見つめたまま動かない。
「了解! 全員、馬に乗れ!」
兵士のうちのひとりが頷く。その顔には見覚えがあった。7年前から調査兵団にいる兵士だ。彼がいるなら大丈夫だろう。
「でも、アリアさん」
トーマンが驚いたようにつぶやいた。
「そんなの無茶です! 死んでしまいます!」
「あなたたちの命とわたし一人の命なら、どちらを優先すべきかは明白だ」
「トーマン、急げ! 巨人が動いていない今のうちだ!」
トーマンは何度もアリアを振り返りながら、馬に乗った。
だがアリアはそれ以上なにも言わなかった。今は目の前の巨人たちを相手にするのが先決だ。