第15章 命の優先順位
リヴァイの部屋のクローゼットにアリアの洋服が仕舞われるようになったのはいつからだろう。
洗い立てのシャツと淡いベージュのズボンを身にまとう。同じ兵団支給の洗剤を使っているはずなのに、彼のクローゼットに入っているというだけでなんだかいい香りがする。
引き出しから櫛を取り出し、寝癖のついた髪を整える。鏡に映る自分の顔はずいぶん眠たそうに見えた。
横のベッドでリヴァイが身動きをする。
まだ日も昇らない早朝。彼が目覚めるまであと1時間程度だろうか。
壁外調査の前日、二人は決まって体を重ねるようになっていた。どちらが言い出したというわけでもない。ただ、高ぶる気持ちを宥めたかった。人の性欲は生存本能が脅かされたときに強くなるらしい。あながち間違いでもないのだろう。
髪を梳かし、前に垂らして丁寧に編み込みにしていく。
壁外に出ればしばらくは髪も洗えなくなる。仕方ないこととはいえ、それはアリアの気持ちを下向きにさせた。
「……アリア」
掠れた声が聞こえた。
見ると、リヴァイがぼんやりと目を開けてアリアを見ていた。
「おはようございます、リヴァイさん」
のそのそと布団から出てくる。何も身につけていない体は昨夜のことを思い出させる。
アリアは少しだけ頬を赤くした。
「おはよう」
ベッドに腰掛けたリヴァイは大きなあくびをする、
どこか間の抜けた姿にアリアは思わず笑う。リヴァイは不思議そうにアリアを見た。
「どうした」
「いえ。リヴァイさんのこんな姿を知ってるのはわたしだけなんだなぁと思うと嬉しくて」
リヴァイは小さく微笑むと、「なんだそれ」とつぶやく。それが彼の照れ隠しであることをアリアはよく知っていた。