第15章 命の優先順位
二人は並んで談話室を出て行く。近く寄り添う背中を見送り、気づくとトーマンは立ち上がっていた。
自分が何をしているのかよくわからないまま、二人の後を追う。
消灯後の薄暗い廊下を距離を開けて歩く。足音が鳴るから、ブーツは脱いだ。
彼らが向かっているのは幹部の自室がある棟だった。
リヴァイが行くのはわかるが、どうしてアリアまで? 明日の壁外調査に向けて、何か話し合いでもするのだろうか。
廊下は静かだったが、二人の話す内容までは聞こえなかった。何か喋っているのは聞こえてくるのに。
アリアの手がリヴァイの腕に触れる。リヴァイを見る彼女の横顔はどこか困ったように眉を下げていた。
トーマンは廊下の曲がり角で立ち止まった。二人がある部屋に入って行ったからだ。完全に姿が消えるのを待ってからその部屋の前まで行く。
(ここは確か、兵士長の自室……)
廊下の突き当たりにある部屋はリヴァイの自室だった。
入団初日に場所だけは聞かされていたが、実際に来るのは初めてだった。周りの同期も、先輩ですら訪れたことはないらしい。
ドアの前で立ち止まり、トーマンは固まった。
ほんの少しだけ開いていた。
心臓が大きな音を立てる。どうしよう。もう、引き返した方がいいかもしれない。ここを覗くなんて、そんなことしてはいけない。
心ではわかっているのにトーマンは息を止めてその隙間を覗いた。
「リヴァイさん」
アリアの甘い声が鼓膜を震わす。少しだけ荒い息遣い。
ここからではリヴァイの背中しか見えなかった。
クラバットが床に落とされる。彼の首に2本の腕が回った。金色の髪が奥で揺れる。くすぐったそうな声が聞こえた。
「まって、」
不意にアリアが止める。
「ドアが、少し開いてます」
「……あぁ」
アリアから離れたリヴァイがドアを振り返る。トーマンは逃げる隙を失ってしまっていた。
一歩、また一歩と近づいてくる。彼の着ているシャツのボタンは全て外されていた。
リヴァイの目が真っ直ぐにトーマンを射抜いた。
殺されると思った。だが彼は何も言わず、ドアを閉める。トーマンは音もなくその場に座り込んだ。
廊下は暗く、静まり返っている。