第15章 命の優先順位
トーマンは自嘲するように笑って俯いた。
「すみません、オレ、アリアさんに命を捧げるとか言っときながらこんなことを」
「トーマン……」
「……アリアさんは、怖くないんですか?」
改めて問いかけられ、アリアはしばらく黙った。
壁外調査が怖くないかと聞かれれば、それはない。もちろん緊張はするがそこに恐怖はない。
アリアは考えながら口を開いた。
「慣れ、というものがあるからね。でも、そうだなぁ」
確かに死を目の前にすると恐怖が顔を出す。
初めての壁外調査で仲間たちの死体の海に投げ出されたときも、巨人に体を押しつぶされたときも、そのときはいつも恐怖と後悔と悔しさがあった。
だが、それ以上に。
自分の頬をするりと撫でる。
少しだけ肌荒れをしていた。
「わたしには怒りがあったから」
手を組む。
言いながら、納得している自分がいた。
「怒り?」
「うん。どうしてかはわからないけど、わたしは、自分の自由が阻まれたと感じたとき怒りが湧いてくるの。こんなところで死んでいられない、生きなきゃって」
アリア自身も初陣で巨人に襲われたときは全く動けなかった。親友が助けを求めていたのにそれに応えることができなかった。巨人の指につままれて、大きく開いた口を見下ろしても、体は動いてくれなかった。むしろ、死を受け入れている部分があった。
だが、怒りを覚えるようになったのはいつからだっただろうか。
ナスヴェッターを失ったとき? いいや、もしかするともっと前から。そう、たとえば、10歳の誕生日から。