第15章 命の優先順位
「なんというか、トーマンは勘違いしてるんだよ。わたしのために命を使うなんて、わたしはそんな風に言われるような人間じゃないのに」
「俺たちはアリアさんのために心臓捧げてますよ! な、エルド」
「その通りです! アリアさんに包帯を巻いてもらった日から俺の憧れはアリアさんなんです!」
二人の目は真剣で、だからこそアリアは困った。
なんだかあまりにも持ち上げられすぎているような気がした。
「ありがとう、二人とも。でもそんなにたくさんの心臓はあずかれないかな。それに、」
スープの器に入ったスプーンを持ち、ぐるりと中身をかき混ぜる。
「それに、誰かのために命を使うなんて簡単にできることじゃないでしょ? 壁外に行ったらそんなこと言ってられないし。そもそも、それができる人間はいないはずだよ」
死を前にしたとき。
そんなとき、頭をよぎるのはいつも自分のことばかりだった。
こんなところで死にたくないと強く思い、それと同時に調査兵団に入ったことを後悔した。きっと、みんなそうだろう。食われていった仲間はみんな、そう思ったはずだ。
「でも、アリアさんは弟さんのためにこうして戦っているんでしょう?」
エルドが言う。不思議そうな声音で言う。
「それってつまり、弟さんのために自分の命を使っているってことじゃないですか!」
アリアは顔を上げた。
「あー、」
なんて言おうか迷い、そして笑った。
「どうかな」