第3章 正しいと思う方を
「なんだ」
アリアの近くまで来たリヴァイは抑揚のない声で返す。
近くで見ると眼光と滲み出る圧にごくっと唾を飲み込んだ。
「あの、リヴァイさんの乗ってる馬、たぶんわたしの馬だと思うんですが……」
アリアが恐る恐る言うと、リヴァイは「……あ?」と気の抜けた声を出してから馬から降りた。
アリアの引いてきた馬と乗っていた馬を見比べる。
「…………」
「どうですか?」
長いため息がリヴァイの口から吐き出された。
ガシガシと頭をかき、なんの感情もない目でリヴァイはアリアを見た。
「悪ぃな。間違えてたみてぇだ」
「そっくりですもんね」
双子かと思うくらい瓜二つだ。
違うところと言えば瞳の色くらいだろうか。
アリアが苦笑すると、リヴァイは一瞬黙り、グリュックの手綱をアリアに渡した。
「こいつの名前は?」
今度こそ本物のグリュックかをしっかり確かめるアリアにリヴァイが聞く。
まさかリヴァイからそんなことを聞かれるとは思っていなかったアリアはビクッと肩を揺らした。
「えっと、グリュックと言います」
リヴァイは口の中でグリュックの名を繰り返すと、微かに目を細めた。
「……良い名をもらったな」
ほんの少しだけ柔らかくなった表情にアリアはきゅっと口を閉じる。仏頂面しかできないと思っていたから意外だ。
リヴァイはグリュックの首を撫で、自分の馬に飛び乗った。
「時間を取らせちまって悪かったな」
「い、いえ。わたしのほうこそ訓練の最中にすみません」
アリアはぺこっと頭を下げ、グリュックを引っ張った。
結んだ金髪を揺らし、歩いていくアリアの後ろ姿をリヴァイは見送る。
地下街から引き抜かれたリヴァイにあんな風に敬語を使う人間も謝る人間も話しかける人間もいなかった。
だから、だろうか。
「…………チッ」
どうも気になる。