第3章 正しいと思う方を
ザパッ――!
アリアは水をかぶり、勢いよく頭を振った。
初夏の香りのする風が吹き始めた季節になった。そんな季節に怪我防止の長袖で訓練をしていると嫌でも汗だくになってしまう。
元々汗かきなアリアは訓練を中断し、水浴びに来ていた。
とりあえず服にはかけないように気をつけて頭だけでも水をかぶると、ずいぶんスッキリした気分だ。
アリアは持ってきていたタオルで頭を拭いてきゅっと1つに縛った。なるべく早く乾くようにポニーテールだ。
「グリュック〜、お待たせ」
中断していた馬術訓練の再開のため、繋いでおいたグリュックに呼びかけた。
ぶるるっ、と鼻を鳴らすグリュックを撫でる。
(…………ん?)
しかしなにかしっくり来ない。
光さえ吸収しそうな黒色の毛並み。均等についた美しい筋肉。アッシュグレーの瞳。……アッシュグレー???
「あれ……?」
グリュックの瞳の色はアッシュグレーではない。アリアと同じ深いブルーの瞳だ。
「あなた……グリュック?」
首を傾げて聞いてみるが当然のごとく返事はない。
グリュックとこの馬を間違えてだれかが連れて行ってしまったのだろうか。
ぐるりと訓練場を見渡すと、グリュックはすぐに見つかった。
「……リヴァイさんだ」
グリュックを乗りこなし、障害物を軽々と乗り越えている。
「あ、あの! リヴァイ、さん!」
ぼうっと見惚れていたアリアは慌てて我に返り、リヴァイに呼びかけた。
最後の1つの障害物を跳んだリヴァイはグリュックの手綱を引き、こちらに方向を変えた。