• テキストサイズ

雨上がりの空をあなたと〈進撃の巨人〉

第14章 目に傷のある馬



 トーマンは自分の心臓が激しく鳴っていることに気づいていた。しかし今は無視しなければいけない。憧れの人を前にして醜態を晒すわけにはいかないのだ。


「あの、オレ、訓練兵のときにアリアさんの演説を聞いて、えっと、エルヴィン団長と共に説明会に来てくださったときの」

「あぁ! あのときにいたんだね。うふふ、なんだか恥ずかしいなぁ」


 アリアは照れたように頬をかく。

 トーマンの思い描くアリアの姿は、教壇に立ち、勇ましく、堂々と声を張るアリアだった。だが実際のこの人は穏やかで、慎ましい女性だ。

 トーマンは自分の顔がじわりと熱くなるのを感じた。
 それは緊張のせいではない。
 かすかにリヴァイが身動きをする。その両目は揺れることなくトーマンを見ていた。


「それで、すごく感動したんです! 本当は憲兵団に入ろうとしてたんですけど、本当に心を動かされて、それで調査兵団に」

「えっ、そうなの!? 憲兵団を蹴って調査兵団に入るなんて……すごいね」

「同期からも散々やめとけって言われました。けど!」


 ぎゅっと拳を握り、トーマンは息を吸った。


「オレはいつか、特別作戦班に入ってアリアさんの隣で戦いたいんです! そして、あなたのためにこの命を使いたい。そう、思ったんです」


 人類のために命を懸ける彼女の強い意志を間近で見て、トーマンの心は激しく動かされた。己のすべてをこの人に捧げたいと思ってしまうくらいには。

 アリアは大きく目を見開き、明らかに困ったように眉を下げた。


「あっ、す、すみません! こんなこと急に言われてもって感じですよね、あはは……」


 初対面の人間に「あなたのために命を使いたい」なんて言われて困らない人間がいるはずがない。

 トーマンは慌てて謝罪した。思い上がった自分の言葉が恥ずかしくて、今にも地面に埋まってしまいたかった。


/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp