第14章 目に傷のある馬
──────────
─────
その青年は意気揚々と兵舎の廊下を歩いていた。
夏の気配が漂う日のことだった。
青年の名はトーマン。短く刈り上げられた赤髪と頬に散らばったそばかすがチャームポイントだ。
彼の羽織るジャケットの背中には真新しい自由の翼が刺繍されていた。
一歩進むごとに重量のある足音が廊下に響く。
彼はある女兵士を探していた。
「あのっ!」
そして、ようやく見つけた。
廊下の曲がり角で小柄な男と談笑していた彼女は、トーマンの呼びかけに顔を上げて辺りを見渡した。
「アリア・アルレルトさんですよね」
アリアは振り返り、トーマンを見た。
深い青色をたたえた瞳が瞬きをする。流れるような金髪は丁寧に編み込まれ、べっ甲のバレッタが日の光に当たってきらりと輝いた。
「そうだけど、あなたは?」
彼女は人の良さそうな微笑みを浮かべて首を傾げた。
トーマンは一度だけアリアを見たことがあった。それは訓練兵のときで、そのときに抱いたアリアへの印象と、今こうして話をして得た印象は全く違っていた。
「だ、第102期調査兵団所属のトーマンと申します!」
左胸に拳を当てて言う。
トーマンはつい先日調査兵団に入団したばかりの新兵だった。
「初めまして、トーマン。特別作戦班のアリア・アルレルトです。それでこちらが」
「兵士長のリヴァイだ」
アリアの背後からぬっと男が姿を現す。さっきまでアリアと喋っていた男だ。
トーマンは思わず背筋を正した。その男の眼光の鋭さと威圧感は凄まじいものだった。トーマンの方がずっと大柄で背丈もあるというのに、この小柄な男に勝てるとは到底思えなかった。
それもそのはずだ。
リヴァイ兵士長といえば人類最強という二つ名を持つ調査兵団精鋭中の精鋭。知らない者の方が少ないだろう。
「お、お話中失礼しました。しかし、アリアさんと一度お話したくて」
つっかえながらもトーマンはなんとか言葉を続けた。