第14章 目に傷のある馬
「あぁ、違うの、ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって」
アリアはハッとしたように言って笑った。
俯いてしまったトーマンは恐る恐る顔を上げる。
「とても嬉しい言葉をありがとう。でも、自分の命は自分のために使ってね。わたしはそんな、あなたの命に見合った人間とは言えないから」
「そんなことっ!」
否定しようとした。だがそれはできなかった。
アリアが、今にも泣き出しそうな顔をしていたから。
言葉は喉の奥に消え、トーマンは唇を引き結んだ。
「特別作戦班で待ってるよ、トーマン。これからよろしくね」
アリアは右手を差し出す。トーマンは息を飲み、急いで手のひらをズボンにこすって手汗を拭い、その手を握った。
女性特有の柔らかさはあれど、彼女の手のひらにはたくさんのタコがあり、皮膚はかたくゴツゴツとしていた。兵士の手だった。自分よりも遥かに華奢な女性があの巨人と戦っていると思うと不思議な気持ちになった。
「よろしくお願いします!」