第14章 目に傷のある馬
「なにかいい夢でも見てたのか?」
結ばれた髪を一度おろし、手ぐしで軽く整える。
「いい夢、ですか?」
「あぁ。あまりにも幸せそうに寝ていたから」
アリアは少し顔を赤くして頬を押さえた。
寝顔を至近距離で見られてしまっていたのか。今さらではあるが、恥ずかしい。
「どんな夢だったっけ……リヴァイさんがいたことは覚えてるんですけど」
リヴァイから手渡されたマグカップには熱い紅茶が入っていた。
改めて入れ直してくれたらしい。
ありがとうございます、と言ってアリアは紅茶をひと口飲んだ。
「とにかく幸せだったのは覚えてます」
のんびりと笑う。
詳しい夢の内容は覚えていないのに、幸福感だけはアリアの心の中に残っていた。
「なら、よかったな」
「はいっ」
もう一度髪を結ぼうとして、やめた。短く切った髪はこの数ヶ月でどんどん伸びていき、ついに肩の下辺りまであった。
「あの、リヴァイさん」
指先に髪を巻きつける。
「髪の毛、伸ばすか切るか悩んでるんですけど、リヴァイさんはどっちがいいと思いますか?」
短くするならそろそろ切りに行きたいし、伸ばすのなら手入れを始めないといけない。
リヴァイの意見も参考にしようと思った。
リヴァイは目を瞬かせたあと、とても難しそうな顔をした。
「どっち……」
「あんまりこだわりないですか?」
「長い髪も短い髪もどっちも似合ってる」
「んんっ、うれしいです。ありがとうございます。でも強いて言うなら……?」
「強いて言うなら……」
顎に手を当てて本気で悩み始めてしまった。
さすがに申し訳なくなってくる。やっぱりいいです、と言おうとしたアリアの言葉はリヴァイの声によって遮られた。
「長い方が好きだ」
「長い方ですか?」
「あぁ。そっちのほうがしっくりくる。それに、」
一瞬遠い目をしたリヴァイはそれから再びアリアにピントを合わせた。口角がわずかに持ち上がる。
「俺の上に乗ってるときに長い髪の毛が揺れてるのが好みだな」
「リヴァイさんの上に乗る……? わたしが?」
「夜に」
べし、と鈍い音と共にアリアはリヴァイを叩いていた。