第14章 目に傷のある馬
持ってきたサンドウィッチで腹を満たし、アリアは少しの間微睡んでいた。そうして、夢を見た。彼女にしては珍しく、穏やかな夢だった。
アリアは気球に乗っていた。
隣にはリヴァイがいて、互いに笑い合っている。
気球の動かし方を説明する男の声がして、頭上で火が噴く。
わずかな揺れと浮遊感。
気づくと気球は空に浮いていた。
アリアは歓声をあげる。ぐんぐんと地面が離れていき、点在する民家が小さくなっていった。
気球が浮かぶのを見に来ていた人たちがアリアたちに手を振る。
アリアは隣のリヴァイを見た。すごいですね、と言ったような気がした。リヴァイはそれに微笑み返す。彼は心底幸福そうな目をしていた。
人の姿が点になり、見えなくなり、アリアはウォール・マリアの壁をずっと上から見下ろしていた。
穴が塞がり、そこでは人々が暮らしていた。巨人は淘汰された。アリアの短く切りそろえられた髪が風に揺れる。
身を乗り出したアリアの右目に、どこまでも広がる空が映った。それはアリアがずっと見たかった景色だった。
「アリア」
リヴァイが名を呼ぶ。
アリアの右側に立っていた彼はゆっくりと口を開いた。
「誕生日、おめでとう」
「か、たい、」
アリアは夢から覚める。
そして頭の下に敷かれたずいぶん硬い枕に思わず文句がこぼれた。
「かたくて悪かったな」
目を開いたアリアの視界に、真顔のリヴァイが横から入ってきた。横から??
「リヴァイさん……」
アリアの体は横たわっていた。
頭の下にはリヴァイの太もも。
ハッ、と一気に覚醒したアリアは勢いよく起き上がった。
「す、すみません!!」
最初はきちんと座って寝ていたはずだが、いつの間にかリヴァイに膝枕をされていたようだった。