第14章 目に傷のある馬
「なんだか最近、同じことばかり悩むようになった気がします」
顔の赤みが引いたころ、アリアは言った。
リヴァイはアリアから離れ、地面に腰を下ろす。アリアもその隣に座った。体を寄せ、肩をくっつける。
「アルミンへ海を見せたい、アルミンのために生きなければいけないという母の願いと、誰のためでもない、自分のために生きてみたいという自分の願いの間で、揺れているんです」
アルミンに海を見せるという目標は調査兵団で生き抜く上で必要なものだった。それだけがアリアの希望で、生きる意味だった。そのためだけにアリアは今まで生きてきた。
大切な仲間を見殺しにし、自分の心に蓋をした。それが正しい未来へ向かうのだと信じて。
だがそれと同時に、こんな風に生きるのは嫌だと叫ぶ自分がいたのも事実だ。本当はナスヴェッターたちを助けに行きたかった。エルヴィンを殺してでも、彼らの元に駆けつけたかった。
思えば、あのときからだ。
誰かの声がして、ただ母の言葉を、アルミンの夢を信じ続けたアリアのかたい決意にヒビを入れたんだ。
そうして最後にリヴァイの存在があった。
湖のほとりでびしょ濡れになり、死んでしまいたいと泣き喚くアリアを抱きしめてくれた。
「それでもあなたが抱きしめてくれたから、隣にいると言ってくれたから、わたしはそれにすごく救われたんです。だから、耐えようと思います」
息を吸い込む。
春のかおりがした。あたたかくて、平和で、幸せのかおりだった。
「アルミンに海を見せるまで。そして、きっとそのあとは」
自分のために、あなたと共に生きていこうと思う。