第14章 目に傷のある馬
「アルミンに海を見せたあと、それがお前のしたいことなんだな」
何かを確認するようにリヴァイは言った。
顔を上げて、目が合う。その瞳は優しく細められていた。
「はい」
調査兵団に入ったばかりのときはその先のことなんて考えたことがなかった。いや、調査兵団に入る前から。きっと母にアルミンを託された瞬間から。
それなのに、最近は……。
両親の死に様を思い出さない日はない。
あのとき感じた絶望も、痛みも、苦しみも、すべて忘れることはない。
だが、それでも望んでしまうのだ。
──自由を。
「わがまま、でしょうか。こんなことを、両親が享受できたはずのありふれた日常を望むわたしは、怒られてしまうかもしれない」
どうしてわたしが生きているのだろうと考える日がある。
両親は殺されたのに、なぜわたしは生かされたのか。親友は巨人に食われたのに、なぜわたしは五体満足で立っているのか。
考えても考えても答えのない問いを繰り返す。
「でも、あなたが言ってくれた」
アリアはリヴァイに微笑んだ。
「隣にいてくれるって」
それだけでアリアは強くなれる。立っていられる。前へ進むことができる。
「わたしの望む将来には、あなたがいてほしいです」
一人でありふれた日常を手に入れたとしても、それはきっと、アリアが本当に望むものではない。
アリアの隣には彼がいなければならなかった。
リヴァイは目を見開き、そしてゆっくりとアリアを抱き寄せた。
「リヴァイさん?」
肩に額が押し当てられる。細い髪が鼻をくすぐった。
「プロポーズみてぇなことを言いやがる」
ぽつり、とつぶやかれた言葉。
それを理解した瞬間、アリアは自分の顔が瞬く間に赤くなっていくのを自覚した。
「わっ、プ、いや、そんな、そんなつもりは、」
「違うのか?」
「ちが、えっと、ち、ちがわない、です」
全て本心だった。そこに嘘偽りは存在しない。
だが改めて言われると確かにプロポーズそのもので、アリアは恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。