第3章 正しいと思う方を
――アルミンへ。
姉さんが調査兵団に入ってもうすぐ1ヶ月が経とうとしてるよ。
この手紙がアルミンの元へ届くころにはきっとわたしは壁外調査に行っているね。
壁外調査、不安はたくさんある。まだ1週間前だけどとっても緊張してる。でも、姉さん頑張るから。アルミンに海を見せるために、頑張るよ。だから応援してね。
こういうことはあまり言わないほうがいいとは思うんだけど、なにがあるかわからないから記しておきます。
わたしが壁外調査で死んだらおじいちゃんをお願い。あなたがおじいちゃんを支えてね。
もし姉さんの形見とかがあったらあなたにあげる。
姉さんはずっとアルミンの隣にいるってことを忘れないで。
おじいちゃん、わたしを兵士にすることにきっと内心反対していたでしょう? でも最後にはわたしの背中を押してくれてありがとう。
わたしはあなたの孫として生まれることができて幸せでした。本当にありがとう。
アルミン、おじいちゃん。愛してる。
体には気をつけて。ずっと元気でいてね。
――アリアより
▽△▽
ゴーン、ゴーン、と鐘が鳴っている。2日前、壁外調査へ行った調査兵団が帰ってきたことを知らせる鐘の音だ。
「エレン、ミカサ! 行こう! 姉さんが帰ってきた!」
「ちょっと待てよ、アルミン!」
「エレン、急いで」
少年たちは走っていた。
英雄の凱旋を見るために。
「――姉さ、」
しかしそこに少年の知っている姉の姿はなかった。
姉は自身の馬に乗り、なにかを堪えるように唇を結んで前を見ていた。全身に赤黒いものがこびりついているのに、彼女はただ前を見据えていた。
「……姉さん」
帰ってきた姉に渡そうと思い、書いてきた手紙が少年の手の中でぐしゃりと音を立てて潰れた。
呼びかけてはいけない。
少年はなぜかそう思った。