第14章 目に傷のある馬
叶うのなら、こんな日がずっと続けばいいな。なんて。
(……そう願って叶ったことなんて一度もないけど)
家族とのあたたかな団らんも。
弟と祖父とのおだやかな日々も。
すべて、なにかに奪われていった。
それは突風のように現れ、アリアの心をズタズタに荒らして去っていった。抗う手段さえなかった。
(でも、)
こちらの進みを確認するようにリヴァイが振り返る。目が合って、彼はかすかに微笑んだ。
(この人だけは)
アリアも微笑みを返す。
(この人だけは失えない)
いや、失わない。
もうアリアは非力な少女ではなかった。
アリアには力がある。抵抗するだけの力が。
願うだけの無力な少女に戻るつもりはない。
「アリア、もうすぐだ」
「はい」
おだやかに過ごしたいという願いすら叶わないのなら、それを手放さなければいい。なにがあっても握り続け、胸の中に抱き、奪おうとしてくる者を切り伏せる。
(わたしには、それが……)
アリアはそこで思考をやめた。
考えてはいけないと思った。そしてバレないように息を吐き出す。
最近、こうして思い詰めるようなことが増えた。不健康な考えばかりが頭を回る。
(気分転換、しなきゃ)
今日はリヴァイとのピクニックを楽しみに来た。
しっかり楽しまないと!
リヴァイの乗った馬の歩みが遅くなる。しばらくすると、開けた場所に出た。一気に視界が広がり、アリアの眼前に大きな湖が姿を現した。
「アリア、こっちだ」
呼ばれるがままついて行く。
湖のほとりにはこれまた大きな樹が空へ枝を伸ばしていた。
リヴァイはそこで馬を降り、手近な枝に手綱を結んだ。
アリアも同じようにグリュックを繋ぎ、改めて周りを見渡した。