第14章 目に傷のある馬
「もー! 忘れてください!」
「断る」
呆気なく断られ、アリアは大きなため息をついた。
こんなことなら独り言なんて言わなければよかった。
「ぜんぶ美味そうだな」
厨房に入ってきたリヴァイはテーブルの上に並ぶサンドウィッチとスープを見て感心したように言った。
「これくらい簡単ですよ。味も保証します!」
兵士たるものある程度の料理スキルは必要だし、家でも料理担当はアリアだった。だいたいのものは作れる自信がある。
えっへん、と胸を張るアリアにリヴァイは微笑む。
「朝早くからありがとうな」
「いえ! ピクニック、楽しみですね!」
天気も良いし、気温もちょうどいいだろう。絶好のピクニック日和と言える。
馬を使って眺めの良いところまで行くとだけアリアは聞いていた。
「でも、どうして急にピクニックなんですか?」
せっかくなら、とリヴァイを誘っていっしょに朝食を食べることにする。
食堂から椅子をふたつ引っ張ってきて、並んで座る。アツアツのスープと焼きたてほかほかのパンが本日の朝食メニューだ。
「どうして……」
改めて聞かれると思っていなかったのか、スープ用のスプーンを手にしたままリヴァイは少し考える。
「最近晴れが続いていただろう。だから外に出たら気持ちがいいだろうと思った」
「リヴァイさんがそんな風に考えるなんて意外です」
「悪かったな」
パンをちぎってシチューに浸して食べる。
行儀が悪いと怒られてしまうかと思ったが、リヴァイは特になにも気にせず、むしろ同じようにして食べていた。
「あとは、最近は書類仕事が多かったから外に出たかった」
「息抜きは大事ですよね」
「あぁ。それに、」
席を立ち、二人分の水を汲んでリヴァイに手渡す。
「それに?」
それを飲み干したリヴァイはちらりとアリアを見て、また正面を向いた。
「お前に見せたい景色がある」
「わぁ、楽しみです! だからどこに行くか詳しく教えてくれないんですね?」
「あぁ、そういうことだ」