第14章 目に傷のある馬
さて、シチューのほうはどうなっただろうか。
蓋を開けると湯気が立ち、アリアの視界を白く染めた。
しばらく待っていると中身が見えてくる。
おたまでくるりとかき混ぜて、人参をひとかけら取る。ひょいっと口に放り込むと驚くほど柔らかくなっていた。これなら大丈夫だろう。
ミルクを注ぎ、塩胡椒とそのほかの調味料を振るう。ちまちまと味を確かめながらいろいろと足していく。やがて満足のいく味になり、アリアは思わず口角を上げていた。
「天才かも」
こういうときは自分を思い切り褒めるべきなのだ。
だれもいないのを良いことに好き放題褒めまくる。
「将来は食堂を開くのもいいかもしれない」
あとはこのシチューを保温性の高い容器に移し替え、サンドウィッチをカゴに詰めたらピクニックへの準備はできたも同然。
レジャーシートや紅茶のセットは出かける前でいいだろう。
あとは使った食器の片づけをして、余ったシチューとパンを朝ごはん代わりにしよう。
「さーて、洗い物洗いも、の……」
上機嫌にくるりと回って流し台に向かおうとしたアリアは固まった。
「…………いつから、そこに」
厨房の出入口のところにリヴァイが立っていた。
腕を組み、ドアの枠にもたれかかっている。早朝のトレーニングでもしていたのか、腰には立体機動装置がついていた。
硬直するアリアを見て、リヴァイは堪えきれないように口角を上げた。口元を手で覆って俯く。めちゃくちゃ笑っている!!
「いつから! そこに!!」
「ふ、たまごを、ふふっ、たまご……」
「た、卵がなんですか!!」
リヴァイがそこまで笑うのを見るのは初めてだった。
肩を震わせながらも彼は息を吸った。
「卵を剥いてきれいって言ってるところからだ、ふ、ははっ」
「わー!!!」
よりによって!! つまりそのあとの独り言もぜんぶ聞かれていたということだ!
アリアは顔を真っ赤にしてその場にうずくまった。
恥ずかしい! 穴があったら入りたい!!