第14章 目に傷のある馬
ピクニックなんて何年ぶりだろう。
翌朝、いつもより少しだけ早く起きたアリアは食堂の厨房を借りて弁当を作っていた。ピクニック用の弁当だ。
エプロンをつけ、手際よく料理を進めていく。
(最後にしたのが……訓練兵団に入る前?)
簡単にサンドウィッチとスープでも作ろう。
具材は昨日のうちに買い物を済ませていた。
お弁当を用意しますね、と言ったときのリヴァイの隠しきれない嬉しそうな顔を思い出してアリアはひとりで笑った。
(あのときはまだミカサはいなかった。カルラさんに頼まれて、エレンを預かってアルミンといっしょに行ったんだっけ)
人参、じゃがいも、玉ねぎを小さめに切り、少量の鶏肉といっしょに炒める。あらかた火が通ったら具材が浸かるまでの水を注ぎ、蓋をして柔らかくなるまで待つ。
早朝の食堂にはアリアしかいない。こうしてひとりで料理を作っていると心は自然と実家にいる瞬間に戻っていた。
みんなの朝食を作っていると、まず起きてくるのは祖父だった。その次に父だ。父が紅茶を用意している間に母が来る。そして、朝食がテーブルに並ぶと同じくらいにアルミンがよたよたと椅子に座る。
あのときは賑やかだった。貯えもそれなりにあり、食事に困ることはなかった。あんな平和な朝がこの先もずっと続くのだと信じていた。
(……まぁ、それほど長くは続かなかったけれど)
焼きたてのパンを窯から取り出す。
初めて作ってみたがなかなか良い焼き色だ。割ってみるとふわりと湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いが辺りに漂う。
兵士を辞めたらパン屋になるのも良いかもしれない。
4枚に切り分け、フライパンの上でほどよい焦げ目がつくまで焼く。焦がさないように何度かくるくると裏返す。
(リヴァイさん、喜んでくれるかな)
その間にパンの間に挟む具の準備だ。