第14章 目に傷のある馬
「き、」
途端にアリアの顔が赤く染まった。前髪を整え、服のシワを伸ばし、明らかにそわそわとする。落ち着かなさげにソファーの上で座り直し、ティーカップに手を伸ばそうとしてすぐに引っ込めた。
「どうした?」
リヴァイは笑いをこらえながら聞く。
思ったことを言っただけだがまさかこんな反応をされるとは思ってなかった。
「どうしたもこうしたも……そういうのすぐに言うのやめてください!」
「お前が聞いたんだろ」
「でも心臓に悪いんです!」
「散々言ってるだろ。慣れねぇか?」
「そりゃあ、慣れるわけないです! わたしが毎日どれだけ、」
「どれだけ?」
だがアリアはピタッと口を閉ざしてしまった。
不満そうな目線がリヴァイに突き刺さる。リヴァイは口元に手を置いて上がる口角を隠した。
「なんでもないです!」
「気になるだろ」
「教えてあげません!」
「アリア」
「そんな顔しても無駄ですからね!」
「チッ」
「……自分の顔の良さを理解し始めたリヴァイさんは厄介です」
「なにか言ったか?」
「いいえ〜なんでも」
一瞬の静寂。
先に笑ったのはアリアだった。
ティーカップを両手で持ち、口元を隠す。細められた青い瞳がゆるやかに窓の外に向けられる。鳥でも見つけたのか、視線が少しだけ動いた。
「アリア」
なんとなく、その目を自分に向けたくて。
アリアはリヴァイの声に顔をこちらに戻した。
「はい?」
「明日は一日休みか?」
アリアは目を瞬かせたあと、どこか嬉しそうに頷いた。もうリヴァイがなにを言おうとしているのかわかったかのようだった。
それが少し照れくさく、リヴァイは眉間にシワを寄せた。
「なんだその顔」
「うふふ。いいえ、それで、明日がどうかしたんですか?」
紅茶を飲んで咳払いをする。
「明日、ピクニックに行くぞ」