第14章 目に傷のある馬
春のおだやかな日差しが窓から差し込み、ぬくい風がレースのカーテンを揺らした。遠くから兵士たちの訓練する掛け声や立体機動装置の音がして、今日も滞りなく進んでいることがわかる。
リヴァイは目の前でゆっくりと紅茶を飲むアリアを眺めていた。ソファーに深く腰かけ、足を組む。彼の前にも紅茶は置いてあったが、珍しいことにまだ口をつけていない。
「どうされました? リヴァイさん」
視線に気づいたアリアは顔を上げてリヴァイを見る。
「……いや、なんでもない」
目を逸らさずに答える。なんでもないわけないが、そう答える他なかった。
アリアは不思議そうにしつつも焼き菓子を頬張った。
アリアとリヴァイの前に置かれたティーカップはお揃いの柄をしていた。以前、少し遠くの街へ出かけたときに見つけたのだ。
それを見た瞬間、リヴァイは息をするのを忘れてしまった。
生前、母が大切にしていたティーカップとほとんど同じ模様だったからだ。
無意識のうちに手に取り、見つめていた。
素敵な柄ですね。買いますか? と言ったのはアリアだった。リヴァイは頷き、それを二人分買った。
そうして、アリアとリヴァイが紅茶を飲むときはそのティーカップを使うようになった。
アリアが再びカップに口をつける。
模様を眺め、指先でなぞる。
少し伸びた金髪は光を散らし、口角は満足気に弧を描く。
青い瞳がゆるやかに細められた。
長いまつ毛が伏せられて、アリアはカップをソーサーに戻した。
「リヴァイさん」
あまりにもじっと見つめていたせいだろうか。
ついに困ったようにアリアが言った。
「見つめすぎです。わたしの顔になにかついてますか?」
リヴァイはなんと答えようか迷い、気恥ずかしさを隠すように目線を逸らした。
「綺麗だからだ。お前が」