第13章 呆れるほどおめでたい世界
ため息をついて首を横に振る。
こんなこと考えている暇なんてないのに。
グリュックに乗り、リヴァイと共に補給地点へ戻ろうとする。
「……なに、あれ」
ふと上げた目線の先に、不思議なものを発見した。
「どうした」
訝しげにリヴァイが聞く。
アリアはそれには答えず、グリュックを進めた。
そこには巨大な大木があった。大きなうろがあり、中は暗くてよく見えない。だが、何かがそこにある気配があった。
そうっと覗く。
「人だ」
囁く。
後ろをついてきていたリヴァイも驚いたように息を止める。
うろの中には一人の女性が座っていた。
調査兵団のマントを着ている。首から上がない。兵服はおびただしい血で汚れていた。巨人に頭を食いちぎられたのだろう。そして巨人によってこの中にしまわれた。まるで、大切な人形を飾るように。
(巨人が……そんなことを?)
ただ人間を食べるだけの、知性もない巨人が人間をそんな風に扱うのだろうか。
「ハンジ!」
リヴァイがハンジを呼ぶ。
どちらにせよ、この兵士の身元を明らかにして遺族の元まで届けなければいけない。
「手帳?」
木の根元を見ると、一冊の手帳が落ちていた。
それもまた血に濡れ、女兵士のものだろうと予想がついた。筆まめな人物だったのか、拾い上げるとずいぶん年季の入った手帳だった。
「……腕章を見る限り、一年前に死んだ兵士だろう」
うろから兵士の遺体を取り出したハンジが落ち着いた声で言う。
「名前は、」
「イルゼ・ラングナー」
ハンジの言葉を引き継ぐようにアリアは言った。手帳の最後のページに名前が記されていたのだ。
「そっか。とりあえずジャケットだけ回収しておこう。ここもいつ巨人に見つかるか分からないし」
手帳を捲る。走りながら書いたのか、文字はひどく読みにくかった。
「アリア、それは?」
ジャケットを片手にハンジが振り返る。
アリアの後ろで手帳を読んでいたリヴァイが言った。
「これは、イルゼ・ラングナーの戦果だ」