第13章 呆れるほどおめでたい世界
──私はイルゼ・ラングナー。
第34回壁外調査に参加。第二旅団最左翼を担当。帰還時、巨人に遭遇。
所属班の仲間と馬も失い、故障した立体機動装置は放棄した。
北を目指し、走る。
巨人の支配する壁の外で馬を失ってしまった。人の足では巨人から逃れられない。
街への帰還
生存は絶望的
ただ巨人に遭遇せず壁まで辿り着けるかもしれない。そう、私が今取るべき行動は恐怖にひれ伏すことではない。この状況も調査兵団を志願したときから覚悟していたものだ。
私は死をも恐れぬ人類の翼。調査兵団の一員。
たとえ命を落とすことになっても最後まで戦い抜く。
武器はないが、私は戦える。
この紙に今を記し、今できることを全力でやる。私は屈しない。
私は屈しない
(ここから数ページ飛んでいる)
(文字はさらに読みづらくなっている)
巨人 遭遇
6m級 すぐに私を食べない 奇行種か
いよいよ最期を迎える これまでだ 勝手なことばかりした まだ親に何も返していない きもちわるいおわる
しゃべった
(文字が落ち着きを取り戻す)
(筆圧が濃くなっている)
巨人が喋った。ありえない。意味のある言葉を発音した。
「ユミルの民」「ユミル様」「よくぞ」間違いない。
この巨人は表情を変えた。私に敬意を示すような姿勢を取った。
信じられない。おそらく人類史上初めて私は巨人と意思を通わせた。
この巨人に存在を問う。
うめき声。言葉ではない。
所在を問う。
応答はない。
目的を問う。
(文章はここで終わっている)